平田昌広の長い文。

ちなみに短い文は http://www.office-make.com まで。

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  1. スポンサー広告

フィーバー!

 所要時間・約45分(おおよそのめやす)
  1. 『フィーバー!』

 1

 きょうもシローは自転車に乗って絶好調。
 サドルからおしりを浮かせて、力いっぱいペダルをふんだ。
 行け行けシロー!
 スーパージェットでゴー・ゴー・ゴー!
 口に出すのははずかしいので、心のなかでつぶやいた。
 行け行けシロー!
 スーパージェットでゴー・ゴー・ゴー!
 最近マスターしたばかりの片手ばなしでキメポーズ。お気にいりのパーカーのポケットに、はなしている手をつっこんだ。
 気分ソウ快。
 空は秋晴れ。
 そーれそれそれ、えっさっさー。
 鼻歌ふんふんまじえながら、ポケットにつっこんだ手をもぞもぞもぞ。
 あれれ?
 指先がなにかにふれた。
 ん? なにこれ?
 なぞの物体をとり出そうとしたけれど、この先左折の十字路がせまっている。
 いかんいかん。
 片手ばなしのままではたいへん危険だ。
 というわけで、なぞの物体はそのままポケットの中に放置。右手をポケットからすぱっと出してブレーキ。
 キキキキキッ!
 頭のなかでブレーキの効果音。スピードをおとして十字路を左折。すぐそこの公園に自転車を乗り入れた。
 ブランコの横に自転車をとめて、ほっとひと息。ふたたびシローはパーカーのポケットに手をつっこんで、もぞもぞもぞ。
 ん?
 なんなの、これ?
 ごみくずといっしょに出てきたのは、まいどおなじみ、フィーバーガムではありませんか。
 えっ?
 なんでポケットに入ってんの?
 シローは脳みそをフルスピードで回転させた。
 うむむ・・・。
 考えてはみたけれど、なぜポケットにフィーバーガムが入っているのか、まったく、さっぱり記憶がない。
 どういうことか、わからない。
 なんで?
 鼻息をふき出しながらシローが見あげた青空に、もくもく、もくもく、雲ひとつ。

 ぼくちゃんのポケットに
 フィーバーガムがはいってたよ
 まったくおぼえがないんだよ
 なんでどうしてポケットに
 フィーバーガムがはいってるの?
  1. 『フィーバー!』

 2

 1個10円。アタリつき。
 みんな大好きフィーバーガム。
 つつみ紙の裏に、心臓どきどき、数字が三つ。
 同じ数字がそろったら、大きな声で叫ぶんだ。
 フィーバー!
 333で、フィーバー!
 888で、フィーバー!
 数字が三つそろったら、それがアタリというわけで  
 ラッキー! おめでとう。
 と、めでたくもう1個もらえるのが、まいどおなじみ、フィーバーガムだ。
 そのへんを歩いている100人の小学生に、「ガムは?」と問えば、99人が「フィーバー!」と答える全国共通大人気。
 それがフィーバーガムなのだ。
 数字が三つそろったら、声をそろえて、
 フィーバー!
 Uh─ フィーバー!
 そして、忘れてはならないのが、
 777・スリーセブンだ。
 そろった数字のなかでも、777は特別の「スペシャルフィーバー」なのだ。
 これをハガキにはって、製造元の三橋ガンバ製菓に送ると、おお太っ腹。子ども用のスロットマシンをもれなくプレゼント。
 ただし、777はスペシャルフィーバーというだけあって、めったに出ることはない。
 シローはもちろん、友だちで出したやつだってひとりもいない。
 それがきびしい現実なのだ。
 だから、みんなは口をそろえて、
「777なんて、はじめっから、この世には存在しないんだ!」
 と、いうのだけれど、フィーバーガムのつつみ紙を開けるときは、やっぱり、どきどき真剣勝負。
 神様お願い。
 イカサマいけない。
 英語で夏はサマーです。
 777でスペシャルフィーバー!
 というわけで、777はだれもが夢みるスペシャルフィーバーだけれど、ほかの数字でフィーバーすることはときどきある。
 333とか。999とか。666とか。
 シローも3回出したことがある。
 友だちのなかには、ダブルフィーバーを出したやつもいる。
 フィーバーを出して、アタリでもらったもう1個が、これまたフィーバー。
 それがうわさのダブルフィーバーだ。
 うーん。一生に一度はダブルフィーバー!
 それがシローの夢だけれど、フィーバーガムの話は、まだまだそのぐらいでは終わらない。
 777の「スペシャルフィーバー」の正反対は、444の「死(4)のフィーバー」
 出したやつは4日以内に死ぬという、全国の少年が恐れるフィーバーだ。
 それは、ただの「うわさ」ともいわれる。
 しかし、真相はわからない。
 こんな話がある。
 山にかこまれた、いなか町のできごと。
 シローと同じ小学三年生の少年。
 その町の町長の息子。お金持ちの息子。
 お金持ちの子どもとはいっても、お菓子が好きなのはかわらない。
 そう。その少年は、フィーバーガムの大ファンだった。
 そして、少年は444、死のフィーバーを出した。
 しかし、少年はそのガムを食べた。
「死のフィーバーなんて、ただのうわさだ」
 そういって、だ菓子屋で、444のアタリと、ガムを交換した。
 少年は、4日後にダンプカーにひかれて死んだ。
 ソク死だったという。
 少年の友だちは、ふるえながらいった。
「死のフィーバーの、のろいだ」
 少年の父、町長は怒りくるった。
 三橋ガンバ製菓にかけこんだ。
 しかし、三橋ガンバ製菓の社長はいった。
「444のフィーバーは作っていません」
 その後、町長は少年が買っただ菓子屋に行ったが、アタリで交換したはずの444のフィーバーは、見つからなかったという。
 それでも、少年の友だちは、だれもが口をそろえていった。
「まちがいないです。確かに444でした」
 ・・・これが、ただの「うわさ」なのか。
 ほんとうのことは、だれも知らない。
 444の死のフィーバーで死んだ、いなか町の町長の息子のことを考えると、恐ろしくて眠れない。
 しかし、フィーバーガムはやめられない。
 フィーバーガムの楽しみかたは、数字をそろえるフィーバーだけではない。
 たとえば、877。
 あーん。
 もう少しで、スペシャルフィーバーだったのに!
 ということではなくて、877は「バナナ」と読む。
 だからなに?
 それがどうしたの?
 うーむ。そういわれてしまうと、全国のフィーバーガムファンはこまってしまうのだけれど、三つの数字がなにかのことばになっていて、それがおもしろいではありませんか。
 184・イワシ
 831・野菜
 298・肉屋
 それでは、ここで問題です。
 874は?
 はなし(話)?
 いえいえ。ちがいます。
 こたえは「鼻血」です。
 ほ・ほ・ほ・ほ・ほ・ほ!
 おもしろくない?
 くだらない?
 いいや。ぼくたち小学生なんて、しょせんはそんなもんですよ。
 だれかが874を出したら、
「鼻血!鼻血!鼻血!」と、絶叫しながら追いかけっこをするのですよ。
 ああ、おもしろい。おもしろい。
 そうそう。まえから気になっていたのが、しょっちゅう出てくる384。
 これは異常といってもおかしくないぐらいに多くて、みんなで「なぜだ。なぜだ」と話していたのだけれど、最近になってなぞがとけた。
 おおっ!
 フィーバーガムの製造元は三橋ガンバ製菓だったではないか。
 そうなのです。
 社長の名まえが三橋(ミハシ)で384。
 なるほどナットク。
 たとえばえらい画家がじぶんの絵にサインをするようなものだということで、一件落着したのでした。
 それからそれから、三つの数字には人をばかにしたようなメッセージがこめられていたりもするのです。
 596で「ご苦労!」ときたもんだ。
 ぼくたち小学生が少ないこづかいを使ってやってるというのに、それが「ご苦労!」とは、頭にくるではありませんか。
 まあ、それをぼくたちは楽しんでいるんだけどね。
 でも、184で「イヤよん」なんて、かわいい声でいわれても  
 ハズレはハズレじゃねえか!
 へんっ!ばかにすんなってんだい。
 きょうだってシローは、行きつけのだ菓子屋のタダミセで買ったフィーバーガムに、674で「むなしー」といわれたのだ。
 くそっ!
「むなしー」だってぇ。
 ジョウダンじゃねえ。
 しかし、674で「むなしー」というのは、シローの記憶では、いままでに見たことがない。
 それで、「よーし、友だちに見せてやるか」と、「むなしー」つつみ紙をお気にいりのパーカーのポケットにつっこんで、鼻歌ふんふん帰ってきたのだ。
 そうそうそう。
 そうなんだ。
 そのときは、まちがいなくポケットの中にはなにもなくて、得意の自転車片手ばなしで、「むなしー」を入れたポケットに手をつっこんで、もぞもぞもぞ。指先がなにかにふれた。
 そうなのだ。
 そこにはどういうわけか、まだつつみ紙を開けていない、新品のフィーバーガムが入っていたのだ。

 ぼくちゃんのポケットに
 フィーバーガムがはいってたよ
 まったくおぼえがないんだよ
 なんでどうしてポケットに
 フィーバーガムがはいってるの?

 なんで? どうして?
 うーむ。わからない。わからない。
 ・・・えーい、おりゃっ!
 ブランコの後ろの桜の木に、まわし蹴りをくらわせた。
 しかし、なんのこたえも出てこない。
 なんでだあ?
  1. 『フィーバー!』

 3

 シローのお気にいりのパーカーのポケットに、なぜ、どうして、フィーバーガムが入っていたのか。
 それでは、だ菓子屋のタダミセで買ってむなしく散った、文字どおり674で「むなしー」紙は、いったいどこにいったのか。
 ポケットをさぐってみると、紙くずやら、糸くずが出てくるだけで「むなしー」はどこにもない。
 うん?
 どういこうこと?
 ひょっとして「むなしー」がタイムスリップして、ぼくちゃんが食べるまえにもどったの?
 ということは、このフィーバーガムを開けると、また674の「むなしー」が出るってこと?
 げげげげげ!
 と、声に出して腰をふりながら、なんとなく反対側のポケットに手をつっこんだら、なんのことはない。
 あっさりと「むなしー」つつみ紙が出てきてしまった。
 なーんだよ。
 タイムスリップじゃないのかい。
 ということは、「むなしー」つつみ紙をつっこんだとき、ポケットの中になにもなかったのはあたりまえだ。
 うーむ。では、このフィーバーガムは、いったいどこで、どうやって、ぼくちゃんのパーカーのポケットに入ったんだい?
 思いだせ!
 失った記憶をとりもどせ!
 ぼくはきょう、だ菓子屋のタダミセに行きました。
 はい。まちがいなく行きました
 確かにそこで、フィーバーガムを買いました。
 ふたつ買いました。
 ひとつは行ってすぐに買いました。
 三つの数字はいつもの384でミハシだったので、おもしろくもなんともなくて、その場で捨てました。
 それから、ガムをくちゃくちゃかみながら、店の中や外をうろうろしました。
 あまいものが食べたくなったので、10円の「原始人チョコ」を買いました。
 マンモス級にうまかったです。
 それから、少し気合いをいれて、本日の主役である「特大イカげそくん」を買いました。
 30円です。
 とてもおいしかったです。
 それから、また店の中や外をうろうろして、最後のしあげに、ふたつめのフィーバーガムを買いました。
 しかし、そのフィーバーガムはその場で口の中に入れました。
 そうです。「むなしー」つつみ紙のフィーバーガムです。
 そして、ぼくはタダミセをあとにしたのです。
 というわけで、タダミセで買ったのは、10円のフィーバーガムをふたつ。同じく10円の原始人チョコをひとつ。それから本日の主役、30円の特大イカげそくんを1本です。
 ぜんぶであわせて、60円買いました。
 というよりも、はじめから60円しかなかったのですが、とにかく買ったのはそれだけです。
 というか、60円で買えたのはそれだけです。
 ほかにはなにもありません。
 もちろん、すべてタダミセで食べました。
 あっ。最後の「むなしー」フィーバーガムはまだ口の中に入っています。
 すでに、ほとんど味はしませんが、くちゃくちゃ、くちゃくちゃ食べています。
 しかしです。
 この新しいフィーバーガムのことは、まったく記憶にないのです。
 なぜでしょうか?
 なぜ?
 なんで?
 う〜ん、なんでだあっ!
 ひょっとすると、自分でも気がつかないうちに、万引きをしていた・・・。
 そんなばかな!
 いつのまに万引きなんて、そんなことありえない!
 ムユウ病。そんなことば、聞いたことがある。
 確か、眠っているあいだに、そこらへんをうろうろするってやつだ。
 でも、そのことに、本人は気がついてないって、恐ろしい病気だ。
 そうだったのか。
 眠ってるあいだに、フィーバーガムをポケットに・・・。
 いいや。そりゃないよ。
 だって、ぼく、タダミセでは寝てないもん。
 ふつう、だ菓子屋では寝ないでしょ。
 それじゃあ、なんでフィーバーガムが入ってんの?
 フィーバーガムが空を見あげて、「あら、きょうはいいお天気ね」なんてつぶやいて、散歩にでも行こうかしらと、ころころ、ころころ、ころがって、うっかりこのシロー様のポケットに入ってしまった。
 そんなあほらしい。
 では、なぜだ?
 ひょっとすると  
 これはなにかのインボウか?
 このシロー様をわなにかけるつもりか?
 どういうことだっ!
 ・・・待て。冷静になるんだ。
 優秀なスパイは、どんなときでも冷静でなければいけない。
 冷静になれ!
 冷静になるんだ!
 うーむ。事件のカギは、まちがいなくタダミセにある。
  1. 『フィーバー!』

 4

 タダミセのほんとうの名まえは「多田商店」というらしい。
「タダショウテン」の「ショウテン」は、もちろん「ミセ」のことだから、単純に「ショウテン」と「ミセ」を交換して、「タダショウテン」は「タダミセ」と呼ばれるようになったらしい。
 ただし、タダミセには看板がどこにもない。
 だから、「多田商店」という名まえがほんとうかどうか、実際のところはわからない。
 というわけで、ほんとうの名まえは多田商店らしいタダミセでは、いつもきまって、髪を赤くそめたおばあさん、通称「アカゲバアサン」が店番をしている。
 アカゲバアサンは、いかにもいじわるそうな顔をしているが、じつは、そうとうのんびりしている。
 店中にあふれているだ菓子やおもちゃのひとつやふたつぐらい、いいや、箱ごと三つ四つ、だまって持っていっても、おそらくは気がつかない。
 そういうわけで、だ菓子が「タダ」になる「タダミセ」という説もある。
 ちなみにシローも、だ菓子が「タダ」で「タダミセ」説を熱レツに支持している。
 なにしろシローは「タダ」で「タダミセ」説の、かつてない有力な証拠をにぎっているのだから・・・。
 裁判長。わたくしムコウヤマシローに証言させてください。
 わたくしが所属するクラス。三年二組には学年一のワルといわれるヤマザキという男がいます。
 そのヤマザキが、あるときいったことを、わたくしははっきりと覚えています。
 その日は雨でした。
 給食が終わって休み時間。外に遊びに出ることができず、教室の中でうろうろしていたとき、ヤマザキのことばを耳にしたのです。
「タダミセはなんでもタダだからいいよなあ」
 わたくしが驚いてヤマザキのほうを見ると、ヤマザキは机の上に、特大イカげそくんをプラスチックのびんごと、どかんと置いたのです。
 20本入りのびんをまるまるです。
 そして、ヤマザキは、その中から3本いっぺんに引っこぬいて、まとめてくしゃくしゃ食べだしました。
 どうですか、裁判長!
 ヤマザキは「タダミセ」で「タダ」で特大イカげそくん手にいれたのです。
 それも、1本2本ではありません。
 どかんと、びんごと持ってきたのです。
 これこそ「タダ」で「タダミセ」説の有力な証拠ではありませんかっ!
 裁判長!
 ・・・ねんのため、ことわっておきますが、わたくし、シローはタダミセで、タダで、だ菓子を手に入れたことは一度もありません。
 これだけは、はっきりさせたい。
 ぼくはやってない。
 信じてください裁判長。
 絶対絶対やってない!
 確かにフィーバーガムをにぎりしめて、いじわるそうだけれど、ほんとうはのんびりのアカゲバアサンを横目でちらちら見ながら、にぎりしめた手をポケットのあたりで、うろちょろさせたことはあった。
 しかし、にぎりしめた手をポケットの中に入れたことはない。
 ない!ない!ない!
 絶対ない!
 手のひらにじっとりにじんだ汗にまみれて、フィーバーガムはすっかりふやけてしまったけれど、そのあと売りものにならないかもしれないけれど、とにかく、まちがいなく返しました。
 ぼくはとってない!
 これだけは神にちかっていえる。
 仏様にもいえる。
 キリスト様でもかまわない。
 ぼくは万引きをしたことはありません。
 これからさきも絶対にしません!
 ・・・とはいいきれないけれど、いまのところはありません。
 ぼくは身も心も美しい少年なのです。
 信じてください裁判長。
 ぼくは無実です。
 なぜ、どうして、ポケットの中にフィーバーガムが入っていたのか、まったくさっぱりわからないのです。
 でも、信じてください。
 ポケットからひょっこり出てきたこのフィーバーガムは、タダでいただいたものでは、けっしてありません。
 これはなにかのインボウです。
 ぼくは無実です!
  1. 『フィーバー!』

 5

 インボウだ!
 インボウだ!
 インボウだ!
 こいつはわなだ。
 わなにちがいない。
 だれかが、ぼくに無実の罪をきせて、暗いロウ屋にぶちこもうとしているのだ。
 どうする?
 どうすればいい?
 ぼくは無実だ。
 しかし、それを証明できるのは自分しかいない。
 このインボウに、おそるべきわなにたちむかうのは、シロー、キミ自身だ。
 考えろ!
 推理せよ!
 このミステリーをとくのは、シロー、君しかいないんだ。
 考えろ。
 事件のカギは現場にあるはずだ。
 現場はどこだ?
 それはもちろんタダミセだ。
 タダミセで、なにかがあったにちがいない。
 真犯人はだれだ?
 現場にいた人物を思いだせ。
 そいつがきっとあやしいはずだ。
 だれがいた?
 ・・・まずはシロー。君自身だ。
 ええっ?
 ぼくもうたがわれるの?
 それはないよ。
 だってさあ、自分で自分のポケットに入れたりしないよ。
 なんどもいわせないでよ。ぼくは万引きなんかしたことありません。
 だいたい、犯人は自分だったなんて、そんな結末だったら、殺人事件だと思ってたら、じつは自殺でしたなんてのといっしょだよ。
 そんなのミステリーでもなんでもないよ。
 だから、ぼくが推理している以上、ぼくが犯人ってことはないの。
 わかった?
 ・・・了解。
 では、現場にはほかにだれがいた?
 アカゲバアサン!
 うーむ。ありえなくはないが、売りもののガムを客のポケットに入れたりするかぁ?
 そうだな。
 このセンはまずないだろう。
 ではつぎいってみよう。
 イワシタってやつ。となりのクラスのカッコつけ男。名まえは確かケンスケ。水泳がうまいとかで調子にのってるやつ。
 それから、イワシタといっしょにいたカタキン。名まえは知らない。みんなに「カタキン!」って呼ばれてる。みょう字がカタセかカタヤマなのかもしれないし、ひょっとするとキンタマが片いっぽうによってるのかもしれない。とにかくカタキンってやつ。
 イワシタとカタキンのほかにはっていうと、五年生か六年生か知らないけど、ぼくらより生まれるのニ、三年早かったってだけで、いい気になっているやつらがつるんで三人。名まえはもちろん知らない。三人ひっくるめてABC。
 以上。わたくしシローを含めて現場にいたのは全部で七人。
 それで、シロー君とアカゲバアサンのセンを消して計五人。
 さあ、犯人はだれだ?
 どこのどいつが、このシロー様のポケットにフィーバーガムを入れたんだ?
 さあ推理せよ!
 まずはやつらのアリバイを調べる。
 うむ・・・。
 アリバイってなんだっけ?
 あれだよあれ。「どうして殺したか」っていうその理由だよ。
 もっともあれだ。この事件は殺人でないので「どうしてシロー様のポケットにフィーバーガムを入れたか?」ってその理由だ。
 ん?
 あれ?
 それってドウキってやつでない?
 いかんいかん。
 そうだった。そうだった。
 だから、そうだ。
 アリバイってのは犯行の時刻に、ほかのところで、ほかのことをしていたことが証明されれば、そいつは犯人でないって、そういうのだ。
 ん? 犯行の時刻っていつ?
 いつシロー様のポケットにフィーバーガムが入れられたの?
 そんなのわからないよん。
 おお。アリバイってやつの意味がないよ。
 まあいいや。そんじゃドウキってやつから、いってみよう。
 ドウキはさっき出てきたあれだよ。
「どうしてシロー様のポケットにフィーバーガムを入れたか?」ってね。
 で、なんで入れたの?
 それはあれだ。
 このオレ様を、天下一の小学三年生のシロー様を万引きの罪におとしいれようと思っているやつだ。
 つまり、このオレ様をうらんでいるやつだ。
 えっ? ぼくは人にうらまれるようなことなんかしてないよ。
 だいたいタダミセにいたイワシタともカタキンとも、ほとんど話したことがないし、五年生か六年生のABCなんて、目をあわせたこともないよ。
 ということは、ドウキはなに?
 あっ。ひょっとしてアカゲバアサン?
 バアサンったら、ぼくのことうらんでる?
 きょうはふんぱつして60円も使ったけど、いつもは20円か30円しか使わないから、それでうらみをもってわなをしかけた?
 うーむ。店のものをあんまり買わなくて、それをうらんでしかけたわなで、店のものを使うのってへんでない?
 だいたいさあ、ちょっとしかお金を使わないのは、どいつもこいつも似たようなもんだよ。
 それに、それにだよ。
 かんじんなことに気がついた。
 このシロー様を無実の万引きの罪におとしいれるために、フィーバーガムをしこんだとしたら、オレ様をケーサツにつきださないと意味がないんだ。
 ということは・・・。
 いま、ここで、フィーバーガムをにぎりしめているオレ様をだれかがタイホしようとしているのか? 
 まずい。
 はかられた!
 Oh No!
 落ちつけ! 落ちつくんだシロー君。
 静かに、なにもなかったように、あたりを見まわすんだ。
 そうそう。道に落ちている100円玉を見つけたとき、心臓の高まりをおさえて、なにごともなかったように、あたりを見まわすように。ゆっくり、静かに、あやしいやつがいないか、君をわなにはめようとしているやつがいないか、確認するんだ。
 そうそう。その調子。君ならできる。
 るんるんるん・・・。
 にこにこ笑顔で、あたりを見まわす。
 ・・・だめだめ! それでは「にこにこ」というよりは「にやにや」で、なんだかヘンタイみたいだよ。
 なんでもない顔で、あたりを確認するんだ。
 るんるんるん・・・。
 だいじょうぶ。あやしいやつは見あたらない。ケーサツカンも見あたらない。
 まてよ。ひょっとして、私服のデカが見はってる?
 まさか?
 いいや。小学生の万引事件に私服のデカは出てこないだろう。
 だいじょうぶ。だれにも見られていない。
 ということは、やっぱりこれはわなではない?
 インボウではない?
 おいおい。そんだらよお。なんでフィーバーちゃんがオラのポッケに入ってんだあ?
 なんでよん?
 フィーバーちゃんったら、シロー君のことが好きだからって、うきうき飛びはねてポケットに入ったの?
 ・・・けけっ。
 あほらしい。
 まじめに考えよう。
 なぜ、フィーバーガムがポケットに入ったのか?
 なにかのひょうしで、ころっと転がって、たまたまそこにいたシロー君のポケットに、みごとにすぽっとゴールした。
 なにかのひょうしって、どんなひょうし?
 地震?
 マグネチュード?
 いいや。ガムが転がるぐらいの地震があったら、気がつくにきまってるって。
 ぼろぼろのタダミセなんて、一発でつぶれそうだし、頭かかえてにげてるって。
 したらば、なんでだっぺ?
 おおっ、ひらめいた!
 そうだ。これだ。
 これ! まちがいない。
 フィーバーガムは、はじめっからポケットに入ってたんだ。
 それだよ。それ!
 つまりフィーバーガムは、タダミセに行くよりもまえに、シロー様お気にいりのパーカーのポケットに、入ってたってことだ。
 どういうことかって?
 だから、そういうことだって。
 タダミセでインボウにまきこまれたわけでも、なにかのひょうしでフィーバーガムが転がりこんだわけでもない。
 タダミセに行くまえから、フィーバーガムはポケットに入ってたんだ。
 いつのことだかわからないけど、たとえば「るんるん。あとで食べよう」と思って、ポケットにつっこんでおいたフィーバーガムの存在に、すっかり忘れてそのまんま。
 きょうのきょうまで気がつかなかった。
 はぁ〜べべべん! というわけだ。
 そういうことになると、自分の記憶力の悪さを証明しているようで、少々情けないけれど、この推理は完ぺきだ。
 これで事件は解決だ。
 OK! 名探偵シロー少年。
 それでは三本じめといきましょう。
 よーお!
 ・・・待った!
 その推理。ちょっと待った!
  1. 『フィーバー!』

 6

 なんだよ。なんだよ。
「ちょっと待った」って、なんだよ急に。
 ・・・いいや、すまない。
 ちょいと、ぬかった。
 すっかり忘れてたよ。
 きのう、ぼくは水色のトレーナーを着てたんだよ。
 胸に英語の文字がこげ茶色で書いてあるやつね。
 ぼくには読めないけど、それは「ハロー」って書いてあるわけよ。
 それは、日本語では「こんにちは」という意味で、胸に「こんにちは」なんて、どうどうと書いてあるトレーナーは、はずかしいから嫌いなんだけど、しかたがないから着てたんだ。
 なぜ、お気にいりのパーカーを着なかったって?
 それはあなた、きのうのきのう、つまりはおとといのこと。母さんがいったのです。
「シロー! いくら気に入ってるからって、毎日着てたら体がくさるよ」
 そうなんだ。
 このパーカーは、きのう洗たくしたばかりなんだ。
 だから、もしもポケットにフィーバーガムが入っていたら、くしょくしょのぐちゃぐちゃになってるはずなんだ。
 あちゃちゃ。
 そうだよ。そうなんだよ。
 まえに漢字テストで15点だったとき。こりゃまずいって、くしゃくしゃにまるめてポケットにつっこんで、そのまま忘れて洗たく機にほうりこんだではないか。
 それで、つぎの日の朝に、
「シロー!ポケットになんか入れたまま出したでしょ!」って母さんにどなられて、あたふたあたふたしていたら、
「まったくもうっ!なにいれたの?」って母さんににらまれて、ついうっかり、
「漢字テスト」と正直にこたえてしまって、
「何点だったの?」ってすかさず聞かれたら、
「80点」と、なんだか中途半端なうそをついたんだった。
 そうだよ。そうだよ。
 15点を80点なんて。どうせうそをつくなら100点満点いい気分っていえばいいのにねえ。
 まったくシロー君は小さい男だよ。
 まあ、うそはでかけりゃいいってもんでもないがね。
 うそつきはどろぼうのはじまりってな。
 おいおい。将来はどろぼうかい?
 いまから万引きでお勉強かい?シロー君。
 ・・・げげっ。
 ジョウダンじゃない!
 まあ、それはそうと、ポケットにフィーバーガムを入れたまま洗たくに出したら、あの漢字テストのように、ぐしゃぐしゃってわけだ。
 つまり、フィーバーガムの命、三つの数字がだいなしになるってものよ。
 だからといって、きょうの朝、パーカーを着たときに、
「るんるん。きょうは学校でフィーバーガムを食べよう」
 なんて、ポケットに入れた記憶はない。
 ようするに、はじめからフィーバーガムがポケットに入っていたという推理は、残念ながらなりたたないのだ。
 くそっ!
 じゃあ、なんで、フィーバーガムがポケットに入ってんだ?
 わからない。
 わからない。
 こんなことになるぐらいなら、タダミセなんかに行かなきゃよかったよ。
 もっとも、好きで行ってるわけじゃないけどね。
 それなら、なんでタダミセに行くかって?
 そりゃ、男にはいろいろわけがあるってものよ。
  1. 『フィーバー!』

 7

 シローのお気にいりのパーカーのポケットに、どういうわけかフィーバーガム。
 なぜ?
 いつ、どこで入ったのか?
 いぜんとして理由はわからなくて、公園のベンチにすわって十数分。
 ため息つくこと十数回。
 公園の正面入り口はバス通りに面している。
 シローはそのバス通りに背を向けて、ベンチにすわっている。
 背中のほうから、ブーブーブーブー、車の音が聞こえる。
 バス通りを、自転車で3分ほど行くと、コンビニエンスストアがある。
 シローが週に三度は行くタダミセは、ほんとうは、それほど好きで行っているわけではない。
 ほんとうに行きたいのは、じつはこのコンビニなのだ。
 ・・・ふーん。だから?
 で?
 行きたいなら、行けばいいじゃない?
 ・・・なにも知らない人は、かんたんにいうだろう。
 しかし、シローにはかんたんに行動できないわけがあるのだ。
 ・・・そうさ。男にはいろいろわけがあるってものよ。
 人生いろいろってことよ。
 いいや。実際には「男のわけ」ってほどのことではなくて、ましてや「人生いろいろ」なんて、おおげさなことではない。
 しかし、シローにとっては、重要なわけがある。
 もちろんそれは、コンビニには監視カメラがあって、タダミセのように「タダ」で商品を手に入れるのがむずかしいから、ではない。
 コンビニは、タダミセよりもお菓子の値段が高いのだ。
 たとえば、タダミセでは20円のチョコプリンが、コンビニでは21円になるのだ。
 その1円というのは、もちろん国民の義務の消費税ってやつだ。
 しかし、どう見てもけちくさい空気がながれているタダミセでは、どういうわけか税金をとらない。
 それなのに、笑顔でサービスのコンビニでは、きっちりと税金をとるのだ。
 そのちがいがどういうことか、シローにはよくわからない。
 とはいっても、たとえ1円でも、ちりもつもれば山となる。
 無視するわけにはいかないのだ。
 だいたい、子どもからもきっちり税金をとるなんて、ニッポンのやることはおかしいですよ。
 シローはそうさけびたいけれど、だからといって、総理大臣に手紙を書こうとまでは思わない。
 で、けっきょくのところ、貧しい国民は泣き寝いりするしかなくて、それでシローは涙をこらえて、タダミセに行くのだ。
 コンビニのほうがきれいだし、レジのおねえさんもきれいだし、とっても刺激的で魅力がいっぱいなのに。
 それから、コンビニにはもうひとつ問題がある。
 学校が終わったあとに、行ってみればわかる。
 コンビニの前の駐車場には、車のタイヤ止めの、コンクリートのかたまりがある。
 そのかたまりと、コンビニのピカピカにみがかれたガラスのあいだは、人がひとり、ふたり通れるぐらいのよゆうがある。
 そこは、おそらくは、自転車なんかを置くスペースと思われる。
 しかし、じっさいにシローが自転車をとめるには、かなりの勇気が必要だ。
 なぜなら、いつもそこには、制服のズボンをだらだらさせている中学生が、かばんを放り出して、あぐらをかいてすわっているからだ。
 おやつか食事か知らないけれど、いつでも彼らは、カップ麺をずるずるすすったりしているのだ。
 そこに自転車をとめるなんて、まったくとんでもない話だ。
 もちろん、そこに自転車をとめなくてもコンビニには入れる。
 しかし、入り口のドアを開けようとすると、右目のすみっこで、だらだらズボンが、ちらちら見えて、おそろしくてしかたがないのだ。
 どうしてだらだらズボンがおそろしいか?
 それはあなた。やつらは、天使のようにかわいい小学生をねらう悪魔だからね。
 たとえば、小学生の天使を代表して、テストの点はいいけれど、鉄棒で逆あがりができない学級委員長が登場。にこにこ笑顔でコンビニに入ろうとしたとたん、だらだらズボンの悪魔がすりよってきますよ。
「ねえねえ」って、悪魔に声をかけられたら最後、そのさきになにがまっているかなんて、おそろしくて、とてもいえません。
 というわけで、シローはコンビニに行きたい気持ちをおさえて、だ菓子屋のタダミセに行くわけだ。
 でも、そんな深い事情を知らないのん気なおとなは、「だ菓子屋」と聞いてなつかしそうな顔をするのだ。
「へえー。いまどきの子どもも、だ菓子屋なんて行くんだ」
 おいおいっ!
 好きでだ菓子屋行ってるんじゃないって。
 ホントはコンビニのほうがいいんだって。
 シローとしては、いいたいことが山ほどあるのだけれど、目の前でなつかしそうな顔をしているおとなの顔を見ると、かわいそうになってくる。
 あーあ。しかたねえなあ。
 ちょっと話につきあってやるか。
 という気持ちになって、笑顔をつくってシローはいうのだ。
「チョコ兄もだ菓子屋に行ってたの?」
 そうそう。シローの目の前でなつかしそうな顔をしているのん気なおとなは、チョコ兄(にい)というのだ。
  1. 『フィーバー!』

 8

「だ菓子屋」と聞いてなつかしそうな顔をしているのん気なおとなは、シローの母さんの弟。つまりシローのおじさんだ。
 でも、シローは「おじさん」というかわりに「チョコ兄」と呼ぶ。
 チョコ兄は「チョコ」が好きだから「チョコ兄」と呼ばれるわけではない。
 なぜ、チョコ兄がチョコ兄になったのか。
 その理由は、むかしむかし、シローが1才か2才のころ。それはそれはかわいらしい男の子だったとき。まだチョコ兄と呼ばれていなかったシローの母さんの弟、つまりシローのおじさんが、よちよち歩きのシローとなかよくなりたくて、近づいてきた。
 そっと頭をなでたり、手をにぎったりしていたらしいけれど、1才か2才のシローは、人みしりがはげしくて、ぎゃあぎゃあ泣いたそうだ。
 それで、のちのチョコ兄は考えた。
 こうなったら、エサでつるしかない。
 そして、あまいあまーいチョコレートを、かわいらしいシローの目の前にぶらさげた。
 ほれ、どうだチョコだぞぉ。
 わんわん。
 というわけで、それ以来、よちよち歩きのシローと、のちのチョコ兄は、すっかりなかよくなって、このときからチョコ兄はチョコ兄になったそうだ。
 おーい。チョコ兄。
 なんだーい。シロー。
 シローとチョコ兄の心あたたまる話は、このあともつづくのだけれど、シローは小学生になったころから、チョコ兄をちょっとなめている。
 ちなみに、チョコだから、なめているわけではない。
 人として、なめているのだ。
「おい、チョコ」と、「兄」をはぶいて呼んだりするのだ。
 まあ、じっさいにチョコ兄は子どもになめられるような存在で、おとなのくせに、子どもの話に本気になって入ってくるのだ。
 それで、シローがだ菓子屋に行くと話したとたんに、チョコ兄は目をかがやかせた。
 ガムだの、あめだの、アイスだの、もりあがっているうちに、チョコ兄が子どものころに買っていただ菓子と、シローがいま買っているだ菓子が、ほとんどかわっていないことに気がついた。
「原始人チョコ」
「おお、食べた食べた」
「特大いかげそくん」
「しぶいね。シロー」
「フィーバーガム」
「まってました。数字が三つそろったら、
 んっ〜 フィーバー!」
 といったぐあいで、チョコ兄が子どものころも、フィーバーガムでフィーバーしていることが判明した。
「シロー。知ってる?フィーバーを出して、アタリでガムをもらうときは、フィーバーダンスをおどらなきゃいけないんだぜ」
 といって、チョコ兄は、手と足をくねくね動かして、どうやらフィーバーダンスと思われる、奇妙なおどりにすっかり夢中。
 まともなおとながすることとは、とても思えない。
 ・・・はーあ。これが血のつながったおじさんかよ。
 シローは情けない気分になるのだけれど、それでも楽しそうなチョコ兄についつられて、シローも手と足をくねくねさせてしまうのだ。
 もちろん、じっさいには、フィーバーを出しても、フィーバーダンスをおどる必要はない。
 そんなことはまったくのでたらめだ。
 しかし、チョコ兄の子どものころのでたらめは、きびしい現代を生きるシローたちにも、しっかりと受けつがれている。
 だれかがフィーバーを出したら、きまってまわりの子どもがいう。
「おい。フィーバーダンスおどれよ」
 シローがフィーバーを出したときもだれかにそういわれたし、だれかがフィーバーを出したときもシローはそういった。
 そんなわけで、だ菓子屋でのできごとは、時代をこえて、チョコ兄からシローに受けつがれているのだけれど、やっぱりかわってしまったこともある。
 それがチョコ兄が子どものころにはなかったという、コンビニなのだ。
 シローはほんとうは、アカゲバアサンのだ菓子屋よりも、毎日モップでピッカピカのコンビニのほうが好きだ。
 でも、消費税が、ちりもつもれば山となったり、だらだらズボンの中学生がたむろしていたり、いろいろ事情があるから、だ菓子屋に行くのだ。
 それをチョコ兄に理解してもらいたくて、ていねいに、ていねいに話をしても、チョコ兄はまったくわかってくれない。
「なんで? だ菓子屋のほうが楽しいだろ?」
 と、不思議そうな顔でいうのだ。
 それはシローだって、けっしてだ菓子屋がきらいというわけではない。
 だ菓子の種類はコンビニより多いし、アカゲバアサンも、話せば意外におもしろい。
 ただ、世の中の流れというか、きびしい現代を生きる、いまどきの子どもには、やっぱりコンビニがあっている。
 そのへんのところが、チョコ兄とは完全にずれていて、「これが時代の差ってやつか」と、シローは思うのだ。
 そして、シローはほんとうの気持ちとは反対に、時代の差にさからって、きょうも笑顔でタダミセに行ったわけだ。
 しかし、いつのまにか、パーカーのポケットにフィーバーガムが入っていた。
 おそるべきインボウにまきこまれたのだ。
 どうしたらいいのか?
 シローは公園のベンチで、ため息をついた。
  1. 『フィーバー!』

 9

 ええいっ!
 こうなったら食ってやる。
 ショウコインメツだぜ!
 だ菓子屋のタダミセで、おそるべきインボウにまきこまれたシローだけれど、身に覚えのない罪にはめられるのは、まっぴらごめんだ。
 ジョウダンじゃない!
 そうかといって、パーカーのポケットに入れられたフィーバーガムを持って、
「なんだか知らないけど、ぼくのポケットに入ってたのぉ」
 なんて、のこのこタダミセにもどったら最後、そのままケイサツにつき出されて、これまたまっぴらごめん。
 ジョウダンじゃない!
 そうすると、残された手段はひとつ。
 ショウコインメツだ。
 腹の中におさめてしまえ。
 とはいっても、ガムは口に入れてくちゃくちゃかんでも、最後はぺっと出すのだから、腹の中におさまって、完全にショウコインメツというわけにはいかない。
 しかし、そんなことをいってもはじまらない。
 残された道は、やっぱり食べるしかないのだ。
 ええいっ!
 気合いをいれて、あたりを警戒。木のかげやそこらに、あやしいやつがいないか確認。ケーサツカンがいないかチェック。
 ・・・OK!
 異常なし。
 ほっと安心して、さあ本番。フィーバーガムのつつみ紙を親指のつめではがした。
 インボウ。
 ケイサツ。
 ショウコインメツ。
 どっくん、どっくん。緊張が高まる場面だけれど、フィーバーガムを開けるときは、やっぱり気になる三つの数字。
 シローは頭のなかのスロットマシンを回転させた。
 さあ、いざ勝負。
 つつみ紙の裏を見た。
 どりゃっ。
 888!
 きたっ!
 フィーバーだぁ!
 やったぜ。ついてる。
 フィーバー! フィーバー!
 思わずフィーバーダンスをおどってしまいそうなのをおさえて、空をながめて考えた。
 あれれ?
 なんか、へんじゃない?
 そうだよ。
 そうだよ。なんてこった・・・。
 シローはとんでもない事実に気がついた。
 Oh No!
 ショウコインメツのフィーバーガムが、まさか、まさかのフィーバーなんて。
 そんなあ。どうしたらいいの?
 せっかくのフィーバーなんだから、ここはひとつ・・・。
 にこにこ笑顔でスキップ。
 元気よく、アカゲバアサンに報告。
「おばちゃん、あたったよ!」
 なんて、持って行ったら最後。
 インボウだ。
 入り口にはデカが待っていて、がちゃりテジョウをはめられて、あっというまに敵の思うつぼ。ロウ屋へゴー。
 まさか、こんなことになるとは・・・。
 シローはまったく予想もしなかった展開に、頭をかかえた。
 ベンチにすわろうとしたら、くらりとよろけた。
 そのまま地面にしゃがみこんで、うんうんうなった。
 それにしても、こんなことってあるか?
 こんなうまいぐあいに、フィーバーが出るか?
 もしや・・・にせ札ならぬにせフィーバー?
 こいつはいかん。
 と、888でフィーバーをうらおもて、すみからすみまで確認。さらには太陽にむけてすかしてみた。
 しかし、あやしいところはなにもない。
 それで、シローはふたたび頭をかかえて、どうしたものかと考えた。
 ところで、フィーバーが出たものだから、すっかり忘れていたのがガムの存在だ。
 ぎゅっとにぎりしめていたガムを、口の中にほうりこんだ。
 じゅわっとしみ出るグレープスカッシュの味をうけとめて、もう一度、888のつつみ紙を太陽にすかしてみた。
 うーむ。あやしいところはない。
 事件はふりだしにもどった。
 なぞは深まるばかりだ。
 いつのまに、パーカーのポケットに入っていた、インボウがぷんぷんにおうフィーバーガム。
 しかし、そのフィーバーガムがアタリだったことは、どうやらただの偶然のようだ。
 しかし、しかしだ。
 だからといって、タダミセに、のこのこ戻るわけにはいかない。
 なにが待ちうけているかわからない。
 それなら・・・。
 いっそのこと、888のフィーバーを捨てちまえ。
 ・・・いいや。そんなこと、できないよ。
 もったいないもん。
 めったに出ないフィーバーなんだから、楽しませておくれよん。
 捨てるなんてとんでもないよ。
 だって、だってさぁ〜 
 フィーバー!
 フィーバー!
 フィーバー!
 イェ〜イ サンキュー!
 ・・・だけど、タダミセには行けない。
 ならばならば・・・
 わかった!
 これは、神様からのお告げなんだ。
 神様からシロー少年への、メッセージなんだ。
「シロー君。コンビニへ行くのです」
 そうか。そうだったのか。
 神様ったら、ずいぶんまわりくどいことするんだから。
 お気にいりのパーカーのポケットに、フィーバーガムを入れたうえに、しかもそれで、フィーバーを出すなんて。
 さすがは神様。
 やることがこまかいねえ。イキだねえ。
 わかりましたよ神様。
 ぼく、コンビニへ行きます。
 888のフィーバーで、もうひとつおまけのアタリってわけだから、もちろんお金もかからない。消費税も関係ない。
 だらだらズボンがこわいけど、それは神様があたえたシレンなんですよね。ねっ。
 わかりましたよ神様。
 ぼく、コンビニへ行きます。
 フィーバーガムでフィーバーきめて。
 行くぞ。
 いざコンビニへ!
  1. 『フィーバー!』

 10

 シローは自転車に乗って、片手ばなしでキメポーズ。
 えっちらこっちら。いざコンビニへ。
 行け行けシロー!
 スーパージェットでゴー・ゴー・ゴー!
 るんるん。らんらん。るんらんらん。
 ぼくは陽気な自転車乗りさ。 
 ・・・思いだすぜ。一年生の春。
 幼稚園とおさらばしたのに、補助輪とおさらばできないシロー少年。
 汗と涙の特訓の日々。
 手のひらについたすり傷。
 にじんだ血。
 一週間の特訓の末、補助輪とおさらばしたあのとき。
 体がふるえるほど、感動したぜ。
 泣けたぜ。
 というわけで、以来シローと自転車は熱い友情で結ばれたわけだけれど、補助輪がとれた感動の記念日から早2年。
 人生の節目から2年が過ぎて、いつのまにやら小学三年生。
 あれこれあった夏休みが終わって、二学期が始まってひと月過ぎて、もうすっかり秋。
 晴れわたった空を見ていると、自転車と熱い思いでがうかんでは消えた。
 ああ。思いだす、あのころ。
 ぼくと自転車は確かに愛しあっていた。
 なのに最近、自転車との関係が、すっかり冷えてしまった。
 こういう関係をケンタイキっていうんだ。
 いけない。いけない。
 自転車との関係をシュウフクしなくちゃ。
 それではって、先週新たな刺激をもとめて、シローは両手ばなしにチャレンジ決定。
 ためしに両手をはなしてみたとたん、自転車がよろっとかたむいた。
 あぶないあぶない・・・。
 わずか3秒で断念。
 まったくもう、両手ばなしなんて、とんでもない危険な行為です。
 そんなことしちゃいけません。
 どうせなら、危険を覚悟して両手をはなすなら、一輪車でもやったほうがまだましです。
 よーし。それではつぎいってみようって、こんどは片手ばなしにチャレンジ。
 するとこんどは意外や意外。
 おみごと成功。
 イェ〜イ!
 片手ばなしって、カッコいい!
 そうそう。きょうだって、片手ばなしで、はなしたその手を、お気にいりのパーカーのポケットにつっこんだ、そのとき。
 どういうわけか、フィーバーガムが入っていたのだ。
 しかし、まさかそのフィーバーガムでフィーバーが出るとはびっくり。まったく予想外の展開だ。
 ・・・でもさ、でもさぁ〜
 フィーバー!
 ラッキー! 
 うかれ気分で、タダミセにもどったとたん、おそるべきインボウにまきこまれるなんて、まっぴらごめん。
 ジョウダンじゃない。
 しかし、すべては解決した。
 これは神様のお告げなのだ。
「コンビニへ行きなさい」というお告げだ。
 というわけで、片手ばなしで自転車をこぎながら、あっというまにコンビニについた。
  1. 『フィーバー!』

 11

 いた。
 きょうもいた。
 だらだらズボンの中学生が五人。コンビニの前であぐらをかいてすわっていた。
 シローはブレーキをかけて、自転車のスピードをゆるめた。
 ・・・やっぱり、やめようかしらん。
 あの人たち、目つきが悪いもん。
 でも、これは神様のお告げだから・・・。
 シローはコンビニの入り口の前で、自転車をとめた。
 そこで数秒停止。
 だらだらズボンを右目にとらえ、いっそのこと、頭のなかも停止してしまいたいところだけれど、そういうわけにもいかない。
 いつまでもここにはいられない。
 ここは公共の場だ。
 ここでうだうだしていたら、だらだらズボンとやっていることは同じだ。
 よっしゃ。
 まずは自転車からおりる。
 そして・・・。
 むむんっ!
 やるぜ。やるぜ。やったるぜ。
 だまってたって、はじまらない。
 こそこそするぐらいなら、とっとと帰って寝たほうがましってもんだ。
 えいやっ!
 自転車を押して、だらだらズボンのすみっこの、シャツまでだらだらしている中学生の前に出た。
「すみません」
 声がふるえていたかもしれない。
 でも、シローの口から声が出た。
 だらだらズボンが5人。
 いっせいに、シローを見た。
「ここ、自転車とめてもいいですか?」
 いえた。声が出た。
「ごめんごめん」
 そういって、シャツまでだらだらのだらだらズボンが、なんてことはない顔で、よれよれのバッグを動かしてくれた。
 シローはそこに自転車をとめた。
 ちびったかもしれない。
 でも、どうってことはなかった。
 くるりと向きをかえて、コンビニのドアに手をかけたところで、気がついた。
 だらだらズボンにお礼をいってなかった。
 もっとも、コンビニの前であぐらをかいているだらだらズボンのほうが、悪いのかもしれない。
 しかし、なにかをしてもらったら、お礼をいう。
 それが一人まえの人間ではないか。
 シローはもう一度、だらだらズボンのほうを向いた。
「ありがとうございます」
 ずいぶん遅れていったから、おかしかったかもしれない。
 でも、だらだらズボンの5人組は、なんでもない顔でいった。
「おうっ」
 5人そろって、息のそろった合唱コンクールみたいだった。
 ・・・ふふふ。
 うふふふふ。
 だらだらズボンって、意外にいい人かも。
 シローはなんだかうれしくて、そのままコンビニのお菓子コーナーまでスキップ。
 あったよ。あった。
 はい、ありました!
 町でウワサのフィーバーガム!
 またまたきめるぜ。
 フィーバー!
 と、気合いでひとつ。
 箱の下の、そのまた下のほうからとり出したところで気がついた。
 値段。10円だ。
 あれれ消費税は?
 まわりを見ると、21円のチョコプリンは、21円で消費税1円なり。
 三〇円の特大イカげそくんは、31円で消費税1円なり。
 あれれ?
 20円と30円は、消費税がいっしょ?
 でもって、フィーバーガムや原始人チョコの10円には、消費税がつかない?
 ちょっとどうなってんの?
 なんなのニッポン?
 総理大臣!
 おーい。おーい。ダイジーン!
 ・・・うーむ。なんだか、かんだか、おとなのやることはよくわからない。
 でも、とにかく、お子さまのだいじなおこづかいを守ろうって、10円までは消費税をとらないってことかねえ?
 う〜ん。なんだろうねえ?
 アメリカ人もびっくりだねえ。
 ドモ・アリガト・ダイヂン。
 アメリカヂンモ・カンシャシテマス。
 サンキュー!
 ・・・しかし、そんならあれだ。
 消費税がつくからコンビニではなくてだ菓子屋っていうのも、10円までならコンビニでもいいってことだ。
 それに、だらだらズボンも意外にいい人ってことがわかったし。
 そういうことね。
 ねっ、神様。
 これぞ神様のおみちびきってわけだ。
 ありがと神様。サンキュー!
 それではいってみよう!
 シローは888のフィーバーを持って、箱の下の、そのまた下からとり出したフィーバーガムを持って、いざレジへ。
 アタリのフィーバーを見せると、店員のおねえさんはにこっと笑って、「どうぞ」って。
 ラッキー!
 イエーイ!
 超ハッピー!
 お気にいりのパーカーのポケットに入っていたフィーバーガム。
 どうして、そこにあったのか?
 いまだに、すべてがナゾのまま。
 とはいえ、888でフィーバー出せば、アタリでラッキー。超ハッピー!
 シローは、またまたフィーバーガムを手に入れた。
 スキップ。スキップ。
 ランランラン。
 うきうき気分で走りたい。
 しかし、それはやめておこう。
 だって、ここはコンビニエンス。
 コンビニの店内ですから・・・。
 というわけで、さよなら。バイバイ。
 コンビニエンス!
 よーし。このままいっきにいってみよう!
 と、コンビニの前。
 立ちどまるシロー。
 フィーバーガムのつつみ紙を開けた。
 こい、こいっ。
 フィーバー。フィーバー。
 めざせ二回連続! ダブルフィーバー!
 こーい。こーい。こーい。
 出ろ! 出ろ! 出ろ!
  1. 『フィーバー!』

 12

 ・・・えっ?
 ・・・なに?
 出た・・・444。
 死のフィーバー。
 そんな、ばかな・・・。
 シローのお気にいりのパーカーのポケットに入っていた、フィーバーガム。
 それが888のフィーバーで、アタリで交換したフィーバーガムが、コンビニでもらったフィーバーガムが・・・。
 二回連続のダブルフィーバー。
 それが、まさかの死のフィーバー。
 ああ・・・。
 いまさら、いうまでもない。
 全国の少年のあいだで、ささやかれるうわさ。
 444の「死(4)のフィーバー」を出すと、4日以内に死ぬという、おそろしいうわさ。
 いいや。うわさなら、それでいい。
 しかし、いなか町の町長の息子の話を、知らないやつは、だれもいない。
 死のフィーバーを出して、4日後にダンプカーにひかれた少年。
 ソク死でいった少年。
 町長は三橋ガンバ製菓にかけこんだが、三橋社長はいったという。
「444のフィーバーは作っていません」
 しかし、シローの目のまえには、まちがいなく、444のフィーバーがある。
 まちがいない。
 なんど見ても、目をこすっても、444の死のフィーバーだ。
 ・・・なんでだよ。
 なんでなんだよ。
 存在しないはずの死のフィーバーが、なんであるんだよ。
 なんでなんだよ。
 ・・・神様。
 これは神様のおみちびきですか?
 ぼくは、どうしたらいいんですか?
 ・・・もう
 もういいです!
 ぼく、もう、帰ります。
 フィーバーガムなんか、もう絶対に買わない。
 死のフィーバーなんて、でたらめだ!
 ・・・あーあ。どうしよう。
 車に気をつけて帰ろう。
 早く家に帰ろう。
 ・・・片手ばなし?
 そんなことできませんよ。
 あぶないじゃないですか!
 きょうから四日のあいだは、家でおとなしくしています。
 できたら、学校も休みたいです。
 ・・・それにしても、神様。
 これも神様のおみちびきですか?
 これが神様が出した、こたえですか?

 ぼくちゃんのポケットに
 フィーバーガムがはいってたよ
 まったくおぼえがないんだよ
 なんでどうしてポケットに
 フィーバーガムがはいってるの?

 ぼくは、なにか悪いことをしましたか?
 ひょっとして、悪いことをしたんですか?
 気がつかないうちに、なにか・・・。

 ぼくちゃんのポケットに
 フィーバーガムがはいってたよ
 まったくおぼえがないんだよ・・・

 ああ神様・・・。
 バチがあたる。
 悪はほろびる。
 ・・・ぼくは死んでしまうんですか?
 死ぬんですか?
 死のフィーバーなんて、ただのうわさですよね。
 うわさだと、いってください!
 ・・・神様。
 ぼくはうそをつきました。
「まったくおぼえがないんだよ」なんて、うそなんです。
 なにもかも、はっきり覚えています。
 悪いのはぼくです。
 やってはいけないことを、ぼくはしました。
 ぼくはやってしまいました。
 でも・・・。
 神様。お願いです。
 どうか、おゆるしください。
 もう、絶対しません。
 絶対、絶対しません。
 もう二度と、
 万引きはしません・・・。


                (おわり)
  1. 『フィーバー!』